時計が磁気から受ける影響
大昔は単に、鉄などを引きつける不思議な力と考えられていた磁気ですが、電気との関係を発見されて以来、現代社会を支える重要な力となりました。
その磁気に、時計の中で一番大きな影響を受ける部分はどこかというと、機械式時計ではひげぜんまい、アナログクオーツ時計では電動モーターです。
それぞれどのような影響を受けるのでしょうか。
ひげぜんまい、機械式時計
機械式時計内部の部品は、現在ではおおむね真鍮(しんちゅう)やプラスチックなどの、磁気を帯びない材料で作られています。
しかし、動力源となる「ぜんまい」と、振り子の役割をして時計の精度をつかさどる「ひげぜんまい」だけは鉄でできています。
ひげぜんまいは、非常に薄くて細い小さなぜんまいで、これが広がったり縮まったりするペースが、時計の動くペースになります。
ですから、ひげぜんまいの広がったり縮まったりする動きは、できるだけ一定のほうがいいのです。
ひげぜんまいの振り子運動
ところが、外から強力な磁石を近づけられると、まずひげぜんまいが磁石に引きつけられ、磁石のほうへの動きは速く、磁石と逆方向への動きは遅くなってしまい、動きに偏りが生じ周期が乱れます。
そして、磁石がなくなっても、いったんひげぜんまいが磁気を帯びてしまうと、その磁気によって、ひげぜんまいの動きが一定でなくなってしまいます。
たとえばひげぜんまいの外側がN極、内側がS極というふうになってしまったら、外側に広がる動きは遅く、内側に縮まる動きは速くなってしまうでしょう。
こうなってしまうと時計の動きも不正確になってしまいますから、消磁器という道具を使って、ひげぜんまいが帯びた磁気を消さないといけなくなります。
ひげぜんまいには磁石が大敵なのです。
ステップモーター、アナログクオーツ時計
機械式時計では、ひげぜんまいという、時計の動くペースを決める部分が磁気の影響を受けました。
電池式の時計では、時計の動くペースを決めるのはクオーツ発振器で、そこは磁気の影響は受けません。
磁気の影響を受けるのは、針を動かすモーター部分です。
電池式のアナログ時計には、ステップモーターというモーターが使われることがほとんどです。
下の図のように、ステップモーターの駆動部分である「ローター」は大変小さな部品で、永久磁石が組み込まれています。
非常に小さな部品ですが、このローターの回転が歯車に伝わって、時計の針を動かします。
ステップモーターとローター
「ステーター」は、ローターに動力を与える部分です。
駆動コイルに電流を流すと、エルステッドが発見したように、コイルに磁場が生じて、ステーターは電磁石になります。
ステーターのN極がローターのS極を引きつけ、ローターのN極がステーターのS極に引きつけられて、ローターが動きます。
そこで、駆動コイルに流れる電流の向きを逆にすると、ステーターのN極とS極が反対になります。
ローターのN極とS極は斥けられて、またローターは動きます。
ステップモーターの動作原理
クオーツの発振器を使って、1秒ごとに電流の向きを切り換えて、このような動きを1秒ごとにさせるのが、時計用のステップモーターなのです。
さて、ローターはこのように、ステーターの磁力に押され引かれて回転しているのですが、もし、外から、ステーターよりはるかに強い磁力が働いたらどうなるでしょう。
たとえば下の図のように、ローターのN極が、外の磁石のS極に強く引かれて、回転するのが遅くなったり、回転が止まってしまったりするかもしれません。
ステップモーターに磁石を近づけると…
磁気は、時計のモーターを動かすのに不可欠なものです。
それだけに、モーターは、外からの強力な磁気には影響を受けてしまうのです。
1度ローターの動きが影響を受けてしまうと、時計によっては、時間合わせのほかに、基準となる針の位置も合わせ直さなければいけなくなります。
アナログクオーツ時計も、モーターの磁気から影響を受けるのですが、機械式時計と違って、磁力源から離れたあとも部品が磁気を帯びてしまって影響が残る、ということはほとんどありません。
特に気をつけたい磁力源
つい気がつかないうちに近づけてしまうことが多い磁力源には、たとえば磁石で閉じるタイプの「ハンドバッグ」や「お財布」があります。
これらには、簡単に開かないように強力な磁石が使われています。
また、「携帯電話のスピーカー」は強力な永久磁石のついた板を電磁石で直接振動させて音を出していますし、「マイク」のピックアップに使われている磁石も強力です。
最近よく見かけるようになった、「タブレットのカバー」にも、簡単に外れないように強力な磁石が使われています。
家の中では、「IHヒーターなどの電磁調理器」は、日常身の回りにある磁力源としては最強のものの一つといえるでしょう。
さいわい、磁力の強さは、距離が離れるごとに急激に弱くなります。
電気と磁気についての18世紀最大の発見の一つに、クーロンの法則があります。
これは、「電気や磁気を帯びた物体の間に働く、斥けあう力/引きあう力は、それぞれの持つ電気の量または磁気の量の積に比例し、また、それぞれの間の距離の二乗に反比例する」という法則です。
この法則によれば、磁力の強さは、距離が離れると、その離れた距離の二乗分弱くなりますから、距離1 cmのときに強さが100だったとすると、距離2 cmでは強さは25、距離5 cmまで放せば強さはわずか4まで減ります。
身の回りにあって、つい近づけてしまいそうになる磁石でも、多くのものは、5 cm離れていればまず影響はありません。
お使いの時計が機械式であっても、アナログクオーツ時計であっても、磁力源からは5、6 cm離しておくように、また、近づけてしまったらなるべく素早く遠ざけるように心がけてください。
弊社サポートページも合わせてご参考にしていただき、少しだけ身の回りの磁気に注意して、時計をお使いください。