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磁気のいま昔

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磁気は腕時計のような精密機器にとって大敵であると言われています。

ここでは、そんな磁気について、主に歴史的な観点から説明します。

現代社会を支える磁石

「磁石」と聞くと、なにが思い浮かぶでしょう。鉄がくっつくもの?N極とS極?方位磁針?

 

小学校や中学校での理科や科学の授業や実験が思い浮かぶかもしれません。 不思議なことに、鉄にくっつけると、その鉄も磁石のようになるのでした。
斥(しりぞ)けあったり引きつけあったりする、離れたところから働く目に見えない力が面白くて、いろいろ遊んでみたけれど、そのうちあたりまえのことと飽きてしまったなんて人も多いのではないでしょうか。

 

そんなありふれた、普段は意識することもすくないものですが、実は、「磁石」は現代社会を根底から支えています。
いま皆さんが一番日常的に使うエネルギーは電気だと思いますが、その電気を大規模かつ効率的に作り出すのに、磁石は欠かせません。
また、作り出した電気を動力として利用するときにも磁石は必要なのです。

 

同じように電気で動くクオーツ時計の内部でも、磁石は非常に繊細で大事な役割を担っています。
それだけに、外部の磁石を苦手とするところもあります。
また、ぜんまいで動く機械式時計の内部にも、磁石があまり近づくと困ってしまう重要な部品があります。

 

時計にとって、なくては困るけれど、外からあまり近づけられるのも困るというのが磁石です。
ここではそんな磁石について、少し見てみることにしましょう。

磁石はどのように考えられていたか

磁石は鉄などでできたものを引きつけます。
また、磁石どうしを近づけると、互いに引きつけあったり、斥けあったりします。
さらに、くっついた鉄などは、磁石と同じような性質を持ちます。
強い磁石であれば、磁石が離れてもしばらくは、鉄は磁石と同じようになったままです。

 

このような磁石が持つ力を磁力と言い、この性質を磁気と言います。
また、磁気のある空間を磁場または磁界と言います。
現在では磁気は、電気と合わせて電磁気と呼ばれることもあり、根源的には同じ力から発すると考えられていますが、昔はどのように考えられていたのでしょうか?

 

鉄を引きつける不思議な石、今の言葉でいうなら、天然の磁石になっている磁鉄鉱についての最古の記録は、東洋では紀元前4世紀ごろ、西洋では紀元前6世紀ごろまでさかのぼります。

 

「磁」という漢字は、石偏に、つながりふえるという意味の「茲(し)」が組み合わさって、「物をひっぱりくっつける鉱物」の意味を表します(「磁器」といわれるかたい焼き物にも使われますが、こちらは「磁州」(現在の河北省磁県)という中国の地名に由来するらしく、磁石のような性質を持つ焼き物というわけではないのです)。
中国では、磁石や、磁石でこすった針が一定の方向を指すことが早々に知られたようで、占いや風水に使われ、12世紀頃まで時代を下ると、航海のための方位磁針としても使われました(羅針盤の発明)。ですが、その現象の理由を考えることはなかったようです。

 

英語で磁石の意味の「マグネット、magnet」の語源は、鉄を引きつける石の採れた、古代ギリシアの「マグネシア地方」の地名から、という説があります。
不思議な石が離れたところから鉄を引きつける、という現象で、人間ははじめて磁気を知りました。

 

西洋では、磁石が一定の方向を指すということや、磁石でこすった針が磁石と同じような性質をもつことが知られるのは中国より遅れたようですが、13世紀ごろまでには方位磁針が使われはじめていたようです。
離れたところから作用し、働くのが目に見えずなにも感じられないこの磁石の力はずっと、不思議な、霊的、生命的、あるいは魔術的な力と見られていました。

磁気と電気の関係

磁石が示す現象をはじめて一般的に説明しようとしたのは、16世紀の医師、ウイリアム・ギルバート(William Gilbert、イギリス)です。
彼は、磁気を科学的実験の対象と考えただけではなく、地球が大きな磁石であることも示しました。

 

ギルバートは、同じように物を引きつける現象として、静電気の研究もしていました。
当時としては当然のことだったと思いますが、静電気と磁気とはまったく別の力と考えました。
そのせいもあってか、その後17世紀18世紀と、電気現象と磁気現象は、別々のものとして研究されていきます。

 

長い時間をかけてそれぞれの性質についての理解は深まっていきますが、磁気については方位磁針や羅針盤を除いては実用に役立つことはありませんでした。
電気と磁気が人間の生活に深く結びつくようになるには、お互いの関係の発見を待たなければなりませんでした。

 

磁気と電気との関係の研究が始まるのは19世紀、1820年にハンス・クリスティアン・エルステッド(Hans Christian Ørsted、デンマーク)が電流が磁場を形成することを発見したのがきっかけでした。
エルステッドは、実験器具である電池のスイッチを入れたり切ったりすると、そばに置いた方位磁針が指す方角が変わることに気付いたのです。
より集中的な研究の末、電流の流れる導線のまわりに円形の磁場が形成されるという重大な事実を発見しました。

エルステッドの実験装置(Wikipediaより)

このとき人類ははじめて、磁石ではないものから磁気を作り出すことができたと言ってよいでしょう。
そしてそれは同時に、磁力の大きさのコントロールが可能になったことを意味するのです。

 

早速同年、アンドレ=マリ・アンペール(André-Marie Ampère、フランス)が、エルステッドが発見した現象に完全な説明を与えました(アンペールの法則、電流とそのまわりにできる磁場との関係をあらわす法則)。

 

さらに翌1821年にはマイケル・ファラデー(Michael Faraday、イギリス)が、アンペールの法則に基づいて、電池と磁石を使って導線を回転運動させる装置を作り上げました。

 

電動モーターの先祖です。電気エネルギーが運動エネルギーに変換できるようになったのです。

ファラデーの実験装置(Wikipediaより)

左右どちらも器の中には水銀が入っています。
右では電気の通った導線が中央の磁石の回りを回る仕組みになっており、左では逆に、導線の回りを磁石が回る仕組みになっています。

また、1830年頃には、ファラデーとジョセフ・ヘンリー(Joseph Henry、アメリカ)がそれぞれ電磁誘導現象を発見しています。

 

電磁誘導現象とは、磁場の強さや方向が変化する場所に電気を通す物体を置くと、その物体内部に電流が流れる、という現象です。
この原理によって、磁石を動かすことで磁場を変化させて、電気を得ることができるようになりました。
現代の原子力、火力、水力、地熱などの発電所も、ポータブル発電機も、手回しラジオもこの原理で発電をしています。
また、IH家電では、同じ原理で発生した電気(うず電流)をさらに熱に変換させています。

 

ファラデーはまた、電気や磁気が離れたところに力を及ぼすのは、ニュートンにおける重力のような遠隔作用ではなく、力を媒介する「場」があるのだと考えました。
そして、その「場」を説明するのに、電気力線と磁力線という線を仮想しました。

磁石周辺の磁力線の例

この考え方を引き継いで、電気と磁気のふるまいを統一して記述したのが、ジェームズ・クラーク・マクスウェル(James Clerk Maxwell、イギリス)です。
1864年にまとめられた マクスウェルの方程式によって、古典的電磁気学は完成します。

 

その後、原子物理学と量子力学によって、磁気と電気についての考えかたはさらに変わっていきます。
この、19世紀初頭から始まる電磁気学の進展と、それに続く電気工学の発展による発明と発見は、現代文明ほぼすべての基礎となっています。
それはもちろん時計の分野でも例外ではなく、いまでは時計屋さんにある多くのアナログクオーツ時計は、この発展の成果、電動モーターで動いています。

ちょっとよりみち

人名にちなんだ名前が多い、電気や磁気の単位

ここまで出てきた人は、全員、なにかの単位の名前になっています。
おそらく一番よく耳にするのは、アンペールが由来の「アンペア」(電流の大きさの単位、A)でしょう。
ほかの人たちもそれぞれ、「ギルバート」(起磁力:磁気を生み出す力の大きさの単位、Gb、Gi)、「エルステッド」(磁場:磁場の強さの単位、Oe)、「ファラド」(静電容量の単位、F)、「ヘンリー」(インダクタンス:電磁誘導の起電力に関わる係数、H)、「マクスウェル」(磁束の大きさの単位、Mx)となっていますし、ほかにも、ボルト(電圧、V)、オーム(電気抵抗、Ω)、クーロン(電荷、C)など、みんな人の名前を元にした単位です。
ひょっとすると、電磁気は人の名前を元にした単位が一番多い分野かもしれません。

 

昔からの呼び名というものがほとんどなかった分野で、まだ一人の個人が大きな発見を成し遂げられる時代に発展したため、個人の名前を残しやすかったのでしょう。