光を透過させながら美しい風合いを可能にする素材として、The CITIZEN の「エコ・ドライブ」文字板に使用する「土佐和紙」は、千年以上の歴史を持つと言われています。種類の豊富さが特徴ですが、国の無形文化財に指定される「土佐清帳紙」もその1つ。現在その伝統と技を唯一継承する匠が、手つかずの自然が残る高知県仁淀川町にいます。「尾崎製紙所」の四代目・片岡あかりさんに、和紙の魅力からシチズンとの共創までお話を伺いました。
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クワ科の植物、楮(こうぞ)100%で作った、繊維が長くて丈夫な紙です。うちの工房では、繊維が短くて柔らかい清光箋(せいこうせん)という三椏(みつまた)100%の和紙も作っていますが、土佐清帳紙は墨の食いつきがいいということで、書道家さんや版画家さんが好んで使ってくださっています。
そうですね、明治〜大正時代まではこの辺りの家のほとんどが紙漉きを家業としていたそうですが、原料の栽培から加工、紙漉きまで、古くから伝わる伝統の技法で土佐清帳紙を作っているのは、今ではもう、うち1軒だけになりました。曽祖父が始めた紙漉きを代々受け継いで、私で四代目になります。
曽祖父の代から家族総出で紙漉きをしたようなんですけれども、時を経て男性が紙干し、女性が紙漉きのスタイルになって。それでちり取り(煮熟した楮の皮のキズや残った黒皮、ゴミなどを取り除く作業)はおじいちゃん、おばあちゃんの仕事。だから、家族総出じゃないと生活が成り立たないということですね。今日、娘がやっていたちり取りは、私も幼い頃、遊びではやっていました。ちゃんとやれてなかったかもしれませんけど(笑)。
幼い時に「私が継ぐ!」と宣言したそうなのですが(笑)、紙漉きは地道な作業の繰り返しで本当に体力仕事。大きな和紙は2尺×6尺(63×183cm)にもなりますから、これを手で漉くのは本当に大変です。幼い頃から家族の苦労も見てきましたから、どちらかというと避けていたんですが、海外からもうちの紙をわざわざ使ってくれるお客さんに励まされて。そして和紙を使った素晴らしい作品を見て、「あー、思いに応えたいな。紙づくりしていかなきゃいけないな」と思って。跡を継いで2〜3年で心を決めたような感じです。
うちの和紙は、原料の楮から栽培して、刈り取った楮を束ねて蒸し上げて、手作業で皮を剥ぎとって。繊維をほぐすため消石灰(しょうせっかい)で煮て。それで昔ながらの「田ざらし」で天日漂白して、そして手漉きで、最後の乾燥は板干し。まずは原料から作ること、そして自然の中で作るということを大事にしていますね。こんな伝統が残っている紙漉きはないと思います。
「田ざらし」ですね。水にさらすことで灰汁(あく)を抜き、日光にあてて漂白する工程で。塩素で漂白することもできるんですが、繊維を痛めてしまうので、やっぱりお日様の力、紫外線でさらすことで長持ちする。千年長持ちする「千年和紙」と言われる、土佐清帳紙が生まれるので、ここはもう大事なポイントです。
漉いた紙を最後に、板干しして日光にさらす工程も千年和紙の秘訣と言うか。天候に左右されず場所もとらない鉄板乾燥は急激に乾かしてしまうので繊維を痛めるのです。でも、板と和紙は植物と植物なので、同じように伸びて縮みますから繊維を痛めない。これも守らなきゃいけない伝統です。ただ、伝統的な方法に固執しているわけではなくて。やっぱり大変だから、ラクな方法を試すんですけれど、同じ品質の紙ができなかった。それで、今でも昔ながらの方法で作っています。
書道紙として漉いている紙より薄く、本当に薄く漉いてくれということでした。破れてもいいからと。自分たちはやっぱり綺麗な和紙をシチズンさんに使ってもらいたかったんで、何年か練習したかったんですが、当然そういうわけにはいかなくて(笑)。うちの紙がですね、楮の繊維以外の物質も入っていてボサボサの紙になりやすいものですから、こういう薄い紙を作ることはなかったので、どれぐらい紙料を入れて、どれぐらい水やトロロアオイ(「ネリ」の原料となる植物。水中で繊維の均一な分散を助ける)を入れてというのがわからなくて、これでいいのかな、これでいいのかなと……
そうですね。ただ、シチズンさんが高知市内から1時間半かけて、山の中腹にあるこの工房まで見に来てくれましたから。説明する必要もなくと言うか、ぶつかることもなく、うちの紙のことを理解して使ってくれて、本当にありがたかったですね。もし見に来られてなかったら、土佐和紙はいろんな種類がありますから、違う和紙を使われていたかもしれませんね。ただ薄く漉けばいいというものではなかったというか、たぶん、この景色を選んでくれたんだと思います。そうやから、紙漉きの景色を守るというのも伝統やと思っています。
お世辞やなくて、本当に素晴らし過ぎてビックリしました。うちの紙って本当に素朴な紙なので、あんなキラキラしたものに合うんだろうかと思っていたら、見事にマッチして、綺麗なものが出来上がってきたので、驚きましたね。
やっぱりうちの紙は簀目(すめ/紙を漉く際に使う簀の漉き跡で、独特の模様を生む)があるので、時計に合っているんだと思います。うちの工房では、腐りにくいと言われている竹ひごを使わず、昔から受け継がれているススキの茎を使った茅簀(かやす)を使っているのですが、竹ひごの簀でも出ないことはないんですけれども、やっぱり茅簀だと簀目がよく出ますね。
今、9歳の娘が「私が継ぐ!」と言ってくれているんですが、技術は受け継げても、受け継げないのが道具なんですね。私もずっといろいろな道具を使ってきたんですけど、やっぱり簀桁も鎌もへぐり包丁も、良い道具じゃないと、良い和紙が作れない。自分も道具を作れたらと思って学びに行ったんですけれど、これは本当に大変な作業で時間が必要で。よく言われるのが、作ることができても使えるかっていうことなんですね。
そうなんです。紙を漉く時に使う簀桁を作ることができる職人さんがもう本当にいない。茅簀を作ることができる職人さんは、全国に2人しかいないんですね。紙漉きになりたいと言ってくれる娘のためにも、紙の知識を絶やさないという意味でも、使える道具をなんとか受け継いでいくことが私の目下の使命ですね。
もちろん、それはあります。うちのおじいちゃん(二代目尾崎茂さん/労働大臣賞を受賞した名工)がよく言っていたのは、「アーティストさんは100年経ったら亡くなるけど、その作品は残るんじゃ」と。「残らんかったら意味がない」「うちの紙は千年和紙だから、うちの紙も残してもらいたい」という話をしていたので、やっぱりね、良いものを長く持たせるということは大事やと思います。
そうですね、「紙がどこに売られて、どのような作品になっているか?」をいろんな人にも知ってもらいたかったですし、子どもたちに伝えたかった。やっぱり夢があるやないですか。問屋さんに卸して紙を売って終わりじゃ、やりがいにはならないんですね。素晴らしい作品やアーティストさんに出会えることで、やりがいが生まれて、もっと良い紙を作ろうって思えるので、この「Kaji-House」を建てました。海外のアーティストさんの作品や、うちの和紙を使った和綴じ帳やレターセットなどを販売していますが、和紙は飾って楽しむんじゃなく、どんどん使ってもらいたいので、ここに来て直に触って良さを実感してほしいなと。ワークショップも開いて、原料、和紙、加工まで、すべてお教えして、活気のあるまちづくりをしていきたいと思っています。
まずは土佐清帳紙ならではの文字板の簀目を見てもらって。土佐清帳紙は千年長持ちする千年和紙なので、長く大事に使っていただけたらと思いますし、海外の方に自慢してほしい、和紙の素晴らしさをぜひ伝えてほしいなと思います。
祖父の言葉で、「使い手のための紙漉き」っていう言葉があって、私もそうだと思うんです。自分のためでもあるんですけど、やっぱりこの人のためにと思って漉いたほうが絶対いい紙になるので、その思いをこれからも大事にして紙を漉いていきたいと思っています。
文字板に用いる和紙を漉く手、
素材・原料を吟味する手、
デザインをおこす手、時計を組み立てる手……
人生に永く寄り添う腕時計であるために。
次なる理想に挑みつづける「The CITIZEN」は、
モノづくりへの情熱を秘め、
卓越したクラフトマンシップが息づく
数多くの手のリレーによって生み出され、
その末に身に着ける方のその手に届けられています。
Hand to Hand Story では、
多岐にわたる時計づくりの工程で、
欠かすことのできないさまざまな
熟練の「手」に毎回スポットライトを当て、
そこに秘められた技術や想いを紹介していきます。
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