Next Level Design

美しき日本の青をその腕に。

藍染和紙文字板

Watanabe’s(徳島県)

シチズン初の挑戦となった、藍染和紙文字板。光を文字板下のソーラーセルに通しつつ、いかに土佐和紙を美しい藍色に染め上げるか?その難しいミッションの一翼を担ったのが、徳島県の工房「Watanabe’s」の渡邉健太さん。今回の藍染和紙制作にまつわるエピソードから、藍染に込める想いまでお話を伺いました。

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藍の葉を育てる土からつくる。
すべては、自分自身の唯一の色をつくるために。

今回、藍染和紙文字板の話をお聞きになって、率直にどのような感想を持たれましたか?

ご連絡いただいたときに、単純に「いいね!」と思いました。「文字板に土佐和紙を使う......あぁ綺麗そうだなぁ」と。土佐和紙は染めたことがある、馴染みのある素材だったので、あの光沢に藍色が載ったらマッチアップとしては凄い良いだろうなと感じましたね。「どういう時計に落とし込まれるのかな?」と、もうすでに楽しみが膨らんでいました。腕時計はずっと身に着けるものですから。肌身離さずというモノは、なかなか無いですよね。その重みを受け止めつつ、ふさわしい色合いとなるように1枚1枚丁寧に染めたいなと思いました。

そもそも渡邉さんと藍染の出会いはどのようなものだったのでしょうか?

出発点は東京で働いていた時に、たまたま藍染を体験する機会があって。その工房が、タデ藍の葉を乾燥・発酵させてつくる蒅(すくも)という染料を使って、日本伝統の「天然灰汁発酵建て(てんねんあくはっこうだて)」という技法を実践していたところで、その工房の匂いや、液に手を入れて酸化して変わっていく様子、水で洗った時に現れる青の美しさに衝撃を受けたんです。「どうしてもこの仕事がしたい!」と。それが、この世界に飛び込んだキッカケでした。それまでは、ビビットな化学染料の黄色やオレンジなどの蛍光色を強い色と認識していたのですが、目の醒めるような青、天然の色の力強さというのでしょうか、藍の攻撃的なところだったり、やさしいところだったり、その唯一無二の見え方に魅力を感じましたね。

渡邉さんは染めるだけでなく、藍を栽培するところから始めているとか。

まず根底にある、藍の栽培や土づくりから始めないと、自分自身の唯一無二の色はつくれないと気づいたんです。だから私の藍染は、ほぼ農業ですね。畑に撒く肥料は、親交の深い養豚場と連携して、糞尿を発酵させて堆肥化したものを使っているのですが、地域の作物にあった栄養価の堆肥づくりを意識しているので、農家の皆さんにも好評いただいています。

すべての工程で天然の材料が使われていますし、サステナブルな取り組みですね。

地域に根付いて、その環境に合わせた藍づくりをすることが、この土地をより良いカタチで使えて、高品質な藍色を持続的に生み出すことにつながっていくと思うんです。なので、地域の皆さんと循環型の取り組みやフードロスの取り組みなども積極的に行っています。

原料はタデ科のタデ藍という植物。1年草で、初春に種を蒔き、夏に収穫する。
「粉成し(こなし)」と呼ばれる作業。刈り取ったタデ藍を、風を使って、葉と茎に選別する。
乾燥させたタデ藍の葉を土間に広げ、水と空気のみで約4カ月かけて発酵させる。
発酵させたタデ藍の葉は、約半年の熟成期間を経て、堆肥状にした染料「蒅(すくも)」に。

理想の藍色と
光の透過率の狭間で。

今回、藍染する土佐和紙はとても薄い素材でしたが......

最初はベタッと染めればいいのでは?と思っていたのですが、やはり布とは全く別物でしたね。藍染は液に浸けたり、水で洗ったりという工程を経るので、当然和紙は布よりも破れるリスクが高いんです。そこで、試行錯誤の末に自然由来の「こんにゃく糊」を薄く引いて、和紙の強度を上げるという方法に辿り着きました。ただ、「こんにゃく糊」が残りすぎても、ダマやムラにもなるので、その辺の塩梅を探るのが苦労した点ですね。

理想の藍色を実現するにあたり、どんな難しさがありましたか?

今回は、(太陽光などを動力源として時を刻む)「エコ・ドライブ」ということで、(和紙文字板の)光の透過性も加味する必要があったので、シチズンの技術の方とディスカッションを重ねて、ターゲットになる色味を設定しました。その色を目指して染色するわけですが、私の工房で行っている「天然灰汁発酵建て(てんねんあくはっこうだて)」は、そもそも発酵菌が活動することによって色が染まりつくメカニズムで、生き物であるので、毎日毎日、液の状態が変わっていくんですね。

毎回、同じように染めればいいわけではない?

そうなんです。湿度や気温、原料の調合バランスなどで微妙に発酵は変わってくるので、毎回、同じ回数や同じ時間(分数)だけ染めればいいわけではないのが、やはり難しいところで。藍染液の濃度をある程度の幅で維持することにはとても気を配りましたね。

あと、藍色は葉っぱ1枚に5%程度しか入っていなくて、残りの95%はいわゆる雑味、雑色と言われるさまざまな色が入っているんですね。布だと染めた後にしっかり洗えるので、雑色出しの洗いの工程を踏めるのですが、和紙はすぐ破れてしまうので、なるべく純粋の藍色だけをバンっと入れたいというのがありましたから......結果として今回の藍染和紙は、液に浸けては取り出しを3回ほど繰り返して、濃度を調整しましたが、染め重ねる時間や回数、どの色合いなら和紙でもしっかり藍色以外の成分を洗い落とせるかなどを、ずっと模索していました。

湿度や気温などにより、染色液の状態は日々変わっていくため、
どれだけの回数・時間染めれば、どんな色合いになるか?その記録は欠かせない。

左:発酵菌の活動により、日々状態が変わっていく染色液/右:染色した和紙は、藍色以外の成分を洗い流し、しっかりと乾燥。この工程を繰り返す

永く寄り添う、
想いも育てるモノづくりを。

シチズンとのコラボレーションはいかがでしたか?

私は藍染という染色の土俵で、シチズンの技術者の方は「どうしたら良い時計ができるか」というところで試行錯誤されているので、「一番良いところを引き出しあうために、たくさんキャッチボールをしましょう」と最初から話をしていました。「色合いはこの辺がすごく良かったです」「この色がすごくマッチしました」というのを逐一報告して、シチズンさんからも「こういうのはどうでしょうか?」と提案いただいたりとか。私が徳島を拠点にしていることもあり、離れての制作でしたが、心理的な距離は近い感じで。良いコミュニケーションをとれたというのが、時計にも表れているのではと思いますね。「薄い和紙だからこれしかできない」ではなく「もっとやれるんじゃないか」というスピリットで、凄く良いモノづくりを楽しんでさせていただいたと感じています。

The CITIZEN は、「永く人生に寄り添う」をコンセプトにしていますが、ご自身のモノづくりとシンクロする部分はありましたでしょうか?

そうですね。永く使われるというのは、モノが続くという良さも当然ありますが、モノの上にさらに人それぞれ思い出や付加価値が積み重なって、唯一無二のものに育つという側面もあると思うんです。私が染めるモノたちも、そうやって時間とともに、思いも育っていくものになって欲しいなという思いがあります。その部分で、The CITIZENと思いの共有が出来ているのは、非常に嬉しいなと思いますね。

最後に、藍染和紙文字板モデルを手に取ってくださるお客様へ、メッセージをお願いします。

藍染和紙が時計に組み込まれた時の調和性というか、色の綺麗さ、引き立つ綺麗さというのが、本当に圧倒的でしたので、実物を手にとってぜひ見てもらいたいなと思いますし、ぜひ購入されて、永く使ってもらいたいなと心から思います。また、意外と藍色は認識されているのですが、「藍色は植物から採れているよ」とか、「発酵を経て染まりつくんだよ」とか、その工程は知られていないんですよね。一言で藍やインディゴと言っても、たくさん方法や地域性があるので、このモデルをキッカケに、その細分化された面白さに触れていただけたら嬉しいなと思います。「日本の藍は、こんなに素晴らしいところがある!」と認識いただいた上で使ってもらえると、時計への愛着もより深まるのではと思いますね。

年差±5秒「エコ・ドライブ」藍染和紙文字板モデル AQ4091-56M
土佐の典具帖紙にWatanabe’sが藍染を施した特別な1本

About

文字板に用いる和紙を漉く手、
素材・原料を吟味する手、
デザインをおこす手、時計を組み立てる手……

人生に永く寄り添う腕時計であるために。
次なる理想に挑みつづける「The CITIZEN」は、
モノづくりへの情熱を秘め、
卓越したクラフトマンシップが息づく
数多くの手のリレーによって生み出され、
その末に身に着ける方のその手に届けられています。

Hand to Hand Story では、
多岐にわたる時計づくりの工程で、
欠かすことのできないさまざまな
熟練の「手」に毎回スポットライトを当て、
そこに秘められた技術や想いを紹介していきます。

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