story #05

女の子の人生に、選択肢を。

池上 清子

公益財団法人プラン・インターナショナル
・ジャパン理事長

国連機関やNGOで、長年にわたって女性の自立支援に取り組まれてきた池上さん。
途上国の女の子の人生に深く関わることになった
きっかけは何だったのでしょうか。

ニューヨークでの出産

ニューヨークの国連本部に勤務していた時、出産を経験したのがすべての始まりでした。
仲良しだったザンビアの友人に車で病院に連れてきてもらったのですが、陣痛が始まって12時間経っても産まれず、
3人の専門医の立会いのもと、帝王切開で無事、娘を出産することができました。
この時、「私はたまたまニューヨークにいたから、出産できた。
もしアフリカの遠隔地にいたら、自分も娘も死んでいたかもしれない」と強く感じました。

私が娘を産んで、母が私を産んで育て、祖母が母を産んで育て、そうやって命がつながっていく。
その大切な瞬間に、死んでしまうお母さんが途上国にはたくさんいる。子どもも一緒に死んでしまう。
それはやっぱりどうにかしないといけないんじゃないかって。
命を紡ぎ出しているわけじゃないですか。
身体の中で、次の世代を育み産むって大変な作業なんだなって思ったんです。
途上国のお母さんと子どもを守っていくっていうことをしないと、命はつながっていかない。
出産している時に感じたんです。
「命はつながってるんだ!」って。

36階のオフィスから、現場へ

当時、国連本部ビルの36階で仕事をしていたんですけど、
自分が命を救いたい女性たちは途上国にいるんだから、こんなエアコンが効いた便利な場所にいてはいけないんじゃないか?
そう思って、国連を辞める決心をしました。
現場に一番近いNGOで仕事をしたいと思い、国際協力NGOジョイセフにすぐに電話をして、そのまま飛び込みで採用してもらいました。

当時会長をされていた加藤シズエさんとの出会いも大きかったですね。
大正デモクラシーの頃から産児調節(バースコントロール)の運動を始められた方で、
日本で初めて女性に参政権が認められた選挙で、日本初の女性国会議員となりました。
女性の命を救いたいと思ってジョイセフに飛び込みましたが、ただ女性の命を救うっていうだけじゃなく、
女性のエンパワーメントが必要なんだっていうことを彼女から学びました。

教育で、女の子を救う

ジョイセフで主に担当したのは、メキシコ、キューバ、ブラジルなどの中南米でした。
カトリックは中絶を禁止しています。
10代の若い子たちは、性教育も受けず、望まない妊娠をしたことがわかると、男の子は逃げる、親は娘を勘当して、女の子たちは路頭に迷うわけです。
中絶できないので出産すると、子どもがいるから余計に仕事を探せない。
1980年代、そんな困難な状況でした。
でも宗教の価値観を変えることはできないし、そういう介入をするべきじゃない。文化の一部なわけですから。
そこで、私たちは、そうじゃなくて、望まない妊娠を女の子たちがしないようにするにはどうしたらいいか。
仮に出産をするんだったら、その時に安全な出産ができるような手助けができるんじゃないか。
そう考えて、それぞれの国にあった形でプロジェクトを立ち上げました。

例えばメキシコでは、「家族計画協会」と連携を取りながら、性教育のアニメーションを作りました。
メキシコの若い画家に6万枚のセル画を描いてもらって、それを日本に持ち帰って動画にし、子どもたちに見せたんです。
当時は学校のカリキュラムの中で性教育をすることは禁止されていたので、一人一人の親に同意をとって、放課後に上映しました。
それは後にモントリオール世界映画祭で短編特別賞をいただきました。
バハマでは、文科省と一緒になって教科書を作ったり、
学校に行っていない子たちにも届くように、コミュニティセンターで課外授業を行ったりました。

当時私は仕事に没頭していて、実母に娘の面倒を見てもらっていました。
娘とはいつも喧嘩ばっかりしていましたね。寂しい思いをさせていたかもしれません。
でも子どもがいるからこそ、中途半端な仕事はできないという思いはありました。

命はつながっていく

現在、私は公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパンの理事長を務めています。
前任者から2年もかけて粘り強く依頼されたのです。
プランについては地下鉄の「Because I am a Girl」の広告を見て知っていましたし、
プランの活動内容は、私が今までやってきたことの延長線でもあるので引き受けました。

プランがとくに支援の重要性を訴えているのは、持続可能な開発目標(SDGs)の中でも一番取り残されやすいとされている女の子たち。
女の子に投資していくこと、つまり、未来のお母さんに投資することは、世界にとってもプラスとして返ってくるんです。
お母さんがきちんと教育を受けることで、子どもの命を救うことができる。
お母さんの教育レベルによって、乳幼児死亡率がぐんと減るんです。
例えば子どもが下痢をした時に、どうしたら止めることができるのか。補水する方法を知るだけで、命を落とさずに済みます。
「誰一人取り残されない社会」を作るために、やっていきたいことはまだまだいろいろありますね。

私がいま一番幸せを感じるのは、孫と一緒にいるとき。
娘を産んでよかったなとしみじみ思います。
今、母は要介護5で、私が自宅介護をしています。
母を車椅子に乗せて、母と娘と孫の4世代で旅行したりするんですよ。
私が出産の時に感じた、命のつながりを実感しています。

池上 清子(いけがみ きよこ)

公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパンの理事長。
プラン・インターナショナルは、子どもの権利を推進し、
貧困や差別のない社会を実現するために世界70カ国以上で活動する国際NGO。
途上国の女の子たちを支援するBecause I am a Girlキャンペーンを展開している。

プラン・インターナショナル・ジャパン

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