厚さ0.02mm、1㎡あたり重さ2g。世界一薄いと言われる土佐の「典具帖紙(てんぐじょうし)」は、光を透過させながら美しい風合いを可能にする素材として、The CITIZENの文字板に採用され、太陽光などをエネルギー源として駆動する「エコ・ドライブ」に多彩な表情をもたらしてきました。清流・仁淀川が流れる高知県日高村、この丈夫さも兼ね備えた極薄紙を製造する「ひだか和紙」の五代目・鎮西寛旨さんにお話を伺いました。
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典具帖紙(てんぐじょうし)と言われる楮を原料とした薄い和紙が我々の主力の製品です。そのほか、障子紙ですとか包装用紙も作りますし、いろんな種類の和紙を作っています。
ええ、かつては農家との兼業で手漉きを行っていたようなのですが、その農家さん何軒かが集まって組合を作ってこの地に移ってきて……というのが創業の経緯になります。手漉きですと1枚ずつの制作になり、どうしても厚みや大きさにばらつきが出てしまうので、工業製品への加工性などを踏まえて、均一で大きさの自由度もある連続性のあるロールの和紙が欲しいと、機械漉きの和紙の要望が高くなりまして、オリジナルの抄紙機を設置したという流れです。昭和44年のことですので、もう50年以上も和紙一筋ですね。
作った原料を最終的に機械に入れて漉くところまでは、手漉き和紙の作り方とほとんど変わらない工程になります。
皆さんそれぞれに特徴のある製品を作られていますが、私どもが頑張って追求を続けているのが、薄さと透明感のある和紙で、そこが一番の違いかなと思います。
原料処理、細かい塵や不純物を人の手と目で丁寧に取り除く作業は、本当に時間をかけています。通常の和紙業者さんですと、原料を洗う際に1度行うんですが、私どもは洗いながらと、洗った後と、最終的に機械に投入する前の3回。それが故に透明感の高い、太い繊維の混ざらない薄い和紙が均一にできます。塩素を使って漂白すればここまで大変ではないのですが、原料に塩素が残ると変色しやすいと言われていますから、一部の文化財保存用やシチズンさんに提供している典具帖紙では塩素漂白は行っていないんですね。なので、とりわけ原料処理の工程が大切になります。
まさにその通りで、「この設備が」「このやり方が」っていう特別なものはなくて、如何に手間隙を惜しまずにかけるかというところで、世界一薄い和紙ができたというふうに考えています。
元々ですね、私どもの会社は、障子メーカーの障子を作ったりと、99%OEM(他社ブランドの製品を製造すること)の会社だったのですが、時代の変化とともに和紙の需要が減ってきまして。そこで「どう生き残るか?」「得意技は何?」って探した時に、「我々はやっぱり薄さだよね」と。じゃあ「その薄い紙に価値を見出してくれている業界はどこだ?」と模索を続けていると、文化財の保存修復の業界では薄い紙を古くなって弱った紙に貼り付けるということをたまたまお聞きして……それが最初のキッカケですね。
いえいえ、当時はパンフレットも何もなかったですから、クリアファイルに和紙を挟んで、インターネットもまだそれほど普及していなかったので電話帳で調べて、サンプルを送らせていただいて、リアクションがあった作品から始まっていったという感じです。その甲斐あって、最初は国内の国立機関からオファーをいただいて、「もうちょっと薄い和紙はないか?」とリクエストがあり、共同開発で現在の一番薄い典具帖紙ができたという流れです。
やはり薄いものなので、連続性を保持できないんですよね。穴が空いたりとか、破れちゃったりというところで。なので、機械の各パーツのテンションですとか圧力を少しずつ調整しながら、薄さを保持して乾燥まで持っていくというのが一番苦労したところです。
当然、操業している日中は試験ができないものですから、夜中の時間であったり、土日の誰もいない工場に若手中心に有志が集まって、こっそり機械を動かして作るということをやっていましたね。最初は3〜4gが限界でしたが、徐々に薄くしていって、2年ぐらいして、1.6g、0.02mmまで薄くすることができました。やっぱりお客様の厳しい要求があったからこそ技術をアップグレードできて、世界一薄い和紙を開発できた。我々はお客様に日々育ていただいているのだと思います。
そうなんです。モーターやベアリングは既製品なんですけれども、本体はほとんどオーダーですから。「こういう紙を作りたいんです!」という熱意を鉄工所の大先輩に伝えて、相談しながらやっていたことを思い出します。和紙作りは機械作りから始まりますので、本当にチーム。皆さんのご協力をいただきながら、私どもが最終的に紙にしていくという流れで、今もやらせていただいています。
はい、何度も海外の博物館や美術館を巡って、実演した甲斐もあって、ルーブル美術館や大英博物館、アメリカではメトロポリタン美術館……おかげさまで本当にいろんな国々、違う文化、言語のところから、コンタクトをいただきまして。やはり薄さには皆さん驚いていただきますし、均一性にも驚いていただいています。
「時計の文字板に和紙って、からかわれているのかな」というところから始まったんですけれど(笑)。開発担当の方の熱い説明を聞くと「絶対やりたい」と思いまして、いろいろお話をさせていただいて、誇り的な部分でお仕事を一緒にさせていただきながら、今に至っています。
一口に典具帖紙と言ってもさまざまで、原料の産地から始まって煮方も違いますし、漂白方法も違います。和紙の染色方法も、繊維自体に色をつけるのか、後からつけるのか。本当にいろんな種類・組み合わせがあります。シチズンさんからは「国産の楮にこだわりたい」「繊維感を綺麗に出したい」という言葉をいただいて、それに適した作り方をしました。楮の和紙は繊維が長くて光を通しにくいですから、どの厚さの和紙が一番、光を透過させるか?充電の度合いと厚さの兼ね合いみたいなところで、サンプルを幾度も出させていただいて、もう本当に数百種類の中から選んでいただきましたね。
今は薄い綺麗な典具帖紙をメインで使っていただいていて、あとは筋を大きくした「雲龍紙」という和紙も使っていただいていますし、色を使った和紙もお使いいただいています。
繊維感を本当に上手に出していただいて、パッと見て「これが和紙だ」ということがわかる製品でした。本当に一生懸命やってよかったなと思いました。全く違和感がないんですよ。和紙の持つ素材感と高級感をうまく融合していただきまして。あと文字板だけじゃなくて、バンドの装着感の快適さであったり、見やすさを追求したコーティングをガラスの表面に施していたり、いろんなことをご説明いただいて、「和紙だけじゃないんだな」「日本のトップ企業の技術力はすごいな」と感動した記憶があります。
私どもの和紙を最初に取り扱っていただいた黒文字板はすごく印象に残っていますね。また藍染和紙のモデルも、すごく藍が美しい…… 紙以上に藍染の藍と時計をマッチさせていただいていますので、藍染の染師の方も古くからの知り合いということもあって、鮮明に記憶に残っています。
世界の博物館や美術館、図書館にお邪魔して和紙の話をさせていただく機会が多いですけども、文化や言葉が違っても、「和紙」という共通の言語があって、それを使って皆さん修理や保存をされてらっしゃる。そういうところで、もっと私どもができることといえば、日本の文化……和紙はもちろん、和紙作りに使う道具や刷毛ですとか、シチズンさんの時計ですとか、そういった日本の技術、文化みたいなものを弊社が伝えられるハブになっていけたらと思っています。
オフィシャルな場所でも当然マッチしますし、海外でのやりとりでも「実はこの時計の文字板は和紙で出来ているんです」と話題の種にもなると思います。でもまず何と言っても、製品そのものの美しさを見ていただきたいですし、和紙の素材感を出した文字板は他にはないですから、これは世界に誇る日本の技術ということで、まだ目にしていらっしゃらない方々にも是非一度見ていただきたいですね。
文字板に用いる和紙を漉く手、
素材・原料を吟味する手、
デザインをおこす手、時計を組み立てる手……
人生に永く寄り添う腕時計であるために。
次なる理想に挑みつづける「The CITIZEN」は、
モノづくりへの情熱を秘め、
卓越したクラフトマンシップが息づく
数多くの手のリレーによって生み出され、
その末に身に着ける方のその手に届けられています。
Hand to Hand Story では、
多岐にわたる時計づくりの工程で、
欠かすことのできないさまざまな
熟練の「手」に毎回スポットライトを当て、
そこに秘められた技術や想いを紹介していきます。
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