先進の軽やかさを加えて
時計開発センターME開発部 技術開発課
シチズン時計が、1924年に初めて「CITIZEN」の名を冠した懐中時計を作り上げてから100年。この節目の年、「時計の本質」を追求してきたシチズンの在り方をお伝えするイベント「The Essence of Time」を東京、ニューヨーク、パリで開催しました。今回は、その第一弾として、東京で6月22日に「オーナーズクラブ」会員をご招待して行われた、新懐中時計「Caliber 0270」開発者によるトークイベントの模様をお届けします。

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オープンイノベーション部
シチズン時計会員プログラム
「オーナーズクラブ」事務局
「CITIZEN」ブランド時計100周年記念イベントでは、まず100周年を記念して誕生した新懐中時計「Caliber 0270」の開発者、土屋建治が初号機「16型手巻き懐中時計」の開発秘話や、新懐中時計に込めた想い、技術などを紹介。続いて、イベントに参加されたオーナーズクラブの皆さまを前に、シチズン愛あふれるトークセッションを展開しました。
それでは、トークセッションとして、本日お越しの皆さまから事前にいただいた質問を4つのカテゴリーに集約し、開発者の土屋健治が直接お答えいたします。一つ目は新懐中時計に対する思い入れから教えてください。
懐中時計は学生時代から欧米のものを中心に収集していましたが、国産の懐中時計にも興味が湧いて出会ったのがシチズンの「16型」という初号機でした。調べてみると仕様が充実し、ムーブメントの精度にも美しさにもこだわり抜いていて、シチズンに対するイメージが一気に良くなりました。その後入社して時計づくりに携わることになり、2024年の100周年に際してこの企画を担当することになったときはとても胸が高まりました。
シチズンに入社するきっかけの一つともいえる懐中時計の新作を、100周年のタイミングでご自身が担当することになったわけですからね。
自分が入社した2000年のころ、シチズンは機械式時計の新しい開発はあまり行っていませんでした。それが、社内外の機械式時計への機運が高まり、機械式時計の開発が再スタートし、私もそれからどっぷり浸かるようになりました。とはいえ、懐中時計まで開発できるとは思ってもみませんでした。
その懐中時計ですが、令和の時代にあえてクラシカルな時計を持つ醍醐味について質問が来ています。
機械式時計の歴史は古く、時間精度や製造技術、デザインなどが進化し続けてきました。ただ、基本的な原理自体は成熟しており、私たちには技術やデザインなどをさまざまに組み合わせ、より新しい価値を作り込んでいく面白さがあります。懐中時計も同じで、100年前のスタイルに新しい技術やデザインを盛り込んでより魅力的なものにする醍醐味があり、そうしたところを楽しんでもらえたらと思います。
次は私も気になっていた質問で、開発者としてこの新しい懐中時計をどんな人に使ってほしいと思われますか。
難しい質問ですが、一つ確かなのは、シチズンは製品を使う人に寄り添うメーカーだということです。ですから、懐中時計としての使いまわしの良さをもとめてチタニウムを採用しながらも手のひらに心地よい重さが感じられるようにしたり、日常使いしていただける生活防水にも配慮したりしており、「この時計いいなあ」と眺めながら、一日一回の手巻きを楽しんでもらえる方に使ってほしいですね。

次は開発者のこだわりを聞きたいという質問の中から、美しく見せるためのこだわりについて教えてもらえますか。
ポイントはまずブリッジです。縁にダイヤモンドバイトで面取りを施して光沢面を出し、光の走り方にこだわりました。また文字板に関しては、電気鋳造という、型にある模様を転写する技術を用い、それに透明な塗装を吹き付け、さらに研磨して立体感や深みのある仕上がりにしています。
手のひらにのせて時間を見る懐中時計ならではのこだわりですね。そうした中で、いちばんのこだわりは何だったのでしょうか。
やはり心臓部である「てんぷ」です。少し専門的な話になりますが、シチズンでは2021年のCaliber 0200から、高精度が持続するフリースプラング方式のてんぷを導入しており、しかも見た目の美しさを両立させるため、専用の設備を導入して作り上げてきました。それがいちばんのこだわりといえます。
腕時計に使われていたCaliber 0200を、懐中時計に使う難しさもあったと思いますが。
懐中時計は腕時計よりもムーブメントが大きくなり、そのぶん、てんぷや歯車類の見せ方も工夫が必要となります。例えば、今回の懐中時計は100年前の懐中時計と小秒針の位置を同じにしており、歯車の配置を美しく見せるために、二番車、三番車という歯車を大きめに新規設計しています。

先ほどは懐中時計を持つ醍醐味というユーザー目線の質問をしましたが、この時代に懐中時計を出す開発者目線の想いをお聞かせください。
100年前の1924年は腕時計が普及し始めた時代で、懐中時計時代の最後を飾るように世に出てきたのがシチズンの初号機でした。そんな懐中時計を会社の新製品として提案できるチャンスは100周年というこのタイミングしかないと思うので、懐中時計を持つ喜びを皆さまに知ってもらえる私自身の喜びを込めて作り上げました。
100年後のこのタイミングで新しい懐中時計が生まれたことは、シチズンの原点に込められた想いが、2024年の「今」をスタートとして表現されている気がします。
そうですね。今回のイベントでは、この100年の中から100本の時計をセレクトして展示していますが、その後ろには何千本という時計があるわけです。そしてその何千本には、各時代でそれぞれの時計を最適化したエンジニアやデザイナーの想いが反映されているのです。それがシチズンのDNAの一つだと私は思っていて、これからの100年もそのDNAが受け継がれ、時代時代の要請に応じたより良いものが出てくるのだと期待しています。
土屋さんは次の100年の時計はどうなっていくと思われますか。
やはりそのベースにあるのは、手に持ったとき、そして腕にはめたときの気分の良さだと思います。そこをいかに私たち作り手がくみ取って、製品の開発につなげていけるかが大きな課題としてあり、100年後もはめて気分が盛り上がる時計が作り続けられると確信しています。どうか、これからもシチズンが皆さまのもとにお届けする時計にご期待ください。




記念イベントでは、会場となった九段ハウス(登録有形文化財)の邸内に、初号機の16型からこの100年の間に誕生したさまざまな時計を進化の系統図で展示。さらに、100年にわたりシチズンの歴史を彩った100モデルを12のカテゴリーに分類し、モデルごとにデザイナーやエンジニアの考察やスケッチも立体的に展示して、「シチズンの本質」を感じていただけるものとしました。