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光をその手に、その力に。
— エコ・ドライブ、半世紀へ —
シチズン「エコ・ドライブ」は、その研究開発がスタートして50年の年月が流れようとしています。
「過去」「現在」「未来」の3つの切り口から、エコ・ドライブの真髄に少しだけ触れてみたいと思います。
時計を動かすちから — エコ・ドライブの誕生まで
時計には動力が必要です。
日時計は動力不要といえるかもしれませんが、太陽が出ていないとお手上げだというのはご存じのとおりです。
動力は使ったら補給しなければなりません。
20世紀の半ば過ぎまで数百年の間、持ち運びのできる時計の動力といえばぜんまいでした。
ぜんまいは数日に一回は巻き直さなければなりません。
20世紀後半、クオーツ時計が普及していくとともに、電気が時計の主な動力になります。
腕時計にはぜんまいに代わって小さな電池が入ることになりましたが、ぜんまいより長い時間うごくとはいっても、電池は切れると使い捨てで、交換しなければなりません。
電池交換にはそれなりの手間がかかります。
また、1973年に第一次オイルショックが起きて以来、省エネルギー、省資源、代替エネルギー源の開発といったことに大きな関心が集まりました。
そんな状況の中、交換不要な時計用の動力源として太陽光発電を利用することに早くから着目していたシチズンは、いち早く「光で動く腕時計」の開発に本格的に取り組みます。
1976年には、世界初の太陽電池式アナログクオーツウオッチ「クリストロンソーラーセル」を発売。高価格にもかかわらず、特にドイツでは高い評価を受けました。
駆動時間などの実用性で普通の時計に及ばない太陽電池式腕時計は、その後しばらく雌伏の時期を迎えました。
しかし、技術の向上と、地球温暖化などの環境問題への関心の高まりを追い風に、1986年には、200時間連続駆動を実現した「アナログウィズ・ソーラーセル」を発表、現在の光発電時計に直接つながる基礎を固めました。
そして1990年代半ば、着実に光発電時計の消費電力を減らし、駆動持続時間を伸ばしてきたシチズンは、その特長を広く伝えるために光発電時計のラインナップを「エコ・ドライブ」と命名します。
「Ecology Drive」を略したそのネーミングには「人・社会・環境に優しく、ずっと動き続ける」という意味が込められています。
1995年には駆動持続時間約6ヵ月を達成、翌年の1996年には時計で初のエコマークを取得したその時計は、ついに、従来の時計に互して一般に広く使われる光発電式時計となりました。
エコ・ドライブには、「市民に愛され親しまれるものづくり」をとおして人々の暮らしに貢献する、というシチズンの企業理念が現れているのです。
動力の供給をできるだけ気にかけなくて済むにはどうしたらいいか。
光発電を時計に生かすことはできないか。
その課題にシチズンが正面から取り組んで40年以上、その半世紀近くに渡る努力の成果が「エコ・ドライブ」と呼ばれる時計であり、技術です。
ここでは、その技術の一端についてご紹介します。
時計の動力とエコ・ドライブの年表
年代 | できごと |
---|---|
紀元前3500~ 紀元前2000年頃 | 古代エジプトで日時計が使われる |
紀元前16世紀頃 | 古代エジプトで、最古の水時計の記録 |
9世紀頃 | イギリスでろうそくを使った燃焼時計が使われる |
11世紀頃 | 中国で、脱進機を使った水時計が作られる |
14世紀頃 | ヨーロッパでおもりを動力に使った機械式時計が作られる |
16世紀初頭 | ヨーロッパでぜんまいを動力に使った機械式時計が作られる |
17世紀 | 携帯できる時計がヨーロッパで徐々に広まる |
1675年 | ホイヘンスがひげぜんまいを発明する |
18世紀末 | 電池が発明される |
19世紀初頭 | 腕時計が作られはじめる 動力源として使える電気モーターが発明される |
1839年 | ベクレルが太陽電池の原理を発見する |
1866年 | ルクランシェが現在の乾電池の原型となる電池を発明する |
1880年 | キュリー兄弟が水晶(クオーツ)の圧電効果を発見する |
1927年 | 世界初のクオーツ時計が開発される |
1948年 | トランジスターが発明される |
1954年 | 電力源として使える太陽電池が開発される |
1950年代末~ 1960年代初頭 | 集積回路(IC)が開発される |
1969年 | 世界で初めてクオーツ式腕時計が市販される |
1973年 | 第一次オイルショック。省エネルギーと新たなエネルギー源開発への取り組み |
1976年 | シチズン、世界初の太陽電池式アナログクオーツウオッチ「クリストロンソーラーセル」を発表 |
1980年代半ば | 地球環境問題への関心の高まり |
1986年 | シチズン、200時間連続駆動を実現した太陽電池式アナログクオーツウオッチ「アナログウィズ・ソーラーセル」を発表 |
1995年 | シチズン「エコ・ドライブ」誕生。「アテッサ・エコ・ドライブ」は6ヶ月の駆動持続時間を達成 |
1996年 | エコ・ドライブ、時計としてはじめてエコマーク認定製品に |
1997年 | 気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書採択 |
2000年 | 「エコ・ドライブ電波時計」発表。 |
2011年 | 「エコ・ドライブサテライトウェーブ」発表。世界初の光発電式アナログ衛星電波腕時計。 |
エコ・ドライブのしくみと工夫
文字板に配した太陽電池(ソーラーセル)で光を受けて発電し、その電気を二次電池にため、その二次電池にたまった電気を使って時計を駆動する、というのが光発電時計の基本的な仕組みです。
エコ・ドライブでは、文字板を透過した光がソーラーセルに当たって電気になり、その電気が集積回路(IC)を作動させます。
ICはその電気を時計を安定して動かせるように二次電池にためます。
ICはその一方で、たまった電気を使ってモーターを駆動・制御して時計(ムーブメント)を動かします。
エコ・ドライブのしくみ
一般にソーラーセルは、光が当たる面積が広いほどたくさんの電気を生み出せます。
メガソーラーと呼ばれる大規模な太陽光発電設備で、広い敷地一面にソーラーパネルを敷き詰めるのはそのためです。
ですが、腕時計では、ソーラーセルを配置できるのはウォッチフェイスという限られた面積にすぎません。
その面積で発電された限られた電力をより有効に使うため、またその電力で動く時計により美しい姿を与えるため、エコ・ドライブでは、いろいろな部分でさまざまな工夫が凝らされています。
ソーラーセルの発電量と二次電池の蓄電量の改善を追求するだけでなく、時計が動くために使う電力量、すなわち時計の消費電力を削減するために、時計のあらゆる部分を根本から改良しつづけていくのがエコ・ドライブの進化の歴史なのです。
針・部品の軽量化
たとえば針は、見やすさを損なわずできるだけ軽くするために、材質と形状が絶えず検討されています。
内部の歯車などの部品についても、必要な強度や加工精度と軽さとを両立させるために、モデルごとに、部品一つ一つについて、材質や形状が工夫されています。
集積回路(IC)のカスタマイズ
時計を制御するIC についても、時計のモデルごとに徹底したカスタマイズが行われます。
ハードウェア面では、回路のミニマム設計で機能を集約し、時計の駆動に必要な回路を可能なかぎり少なくして、消費電力を抑えています。
また、エコ・ドライブ電波時計など高機能な時計に使われるICには、受信した時刻に表示時刻を修正するために、高度な計算を行える回路を搭載したものがあります。
そういった回路を稼働させると消費電力が跳ね上がるため、ソフトウェア面では、そういった回路がなるべく稼働する時間が少なくなるようなソフトウェアを開発することにより、消費電力の低減が行われています。
最低限の電力で動くモーター
また、針を動かすモーターについてもいろいろな工夫が行われています。
時計に使われるモーターはステップモーターといって、一定の間隔で一定の間回転するモーターです。
ステップモーターを動かすときには、スムーズに回らなかったときに備えて、多少のゆとりを持って力を加えるのが普通です。
そうすると、スムーズに回った場合には、余分な力を使ってしまったことになります。
一度一度に使う余分な力は少しでも、それが積み重なると馬鹿になりません。
エコ・ドライブでは、「負荷補償システム」というしくみを使って、常にモーターが回転できる最小の電力で動かし、万一回転しなかった時だけ追加の電力を供給することで、電力消費を抑えています。
さらに、コンピューターシミュレーションを使って、配置などの諸条件に即したモーターの最適条件を時計のモデルごとに割り出すことで、消費電力を抑えています。
発電効率と美しさの両立の追求 — 文字板とソーラーセル
消費電力の削減を追求する一方で、従来の時計に勝るとも劣らない美しさへの工夫も行われてきました。
その代表が文字板です。
発電効率という面からすると、ソーラーセルに当たる光はさえぎらないのが一番です。
実際、発電効率を最優先にせざるを得なかった、かつてのクリストロンソーラーセルやアナログウィズソーラーセルでは、ソーラーセルは針のすぐ下にむき出しのまま配置されていました。
クリストロンソーラーセル
白い文字板をくりぬいたかのようにソーラーセルが四角く配置されています。
ですが、ソーラーセルがむき出しになった文字板は、一般の腕時計にふさわしいとはとてもいえません。
独特の機能美はありますが、時刻が読み取りやすいとはいえず、普通の腕時計を求める人にはおよそ選ばれなさそうなデザイン。
しかし、それも光発電式という特殊な時計ではしかたのないことと思われていました。
だからこそ、シチズンが初めて文字板の下にソーラーセルを配置した時計を発表したとき、その普通の時計と変わらないデザインは驚きをもって迎えられたのです。
アテッサソーラーパワー
文字板の下のソーラーセルは、まったく見えません。
もちろんその文字板は、下に配置されているソーラーセルが発電できるように光を通さなければなりませんでした。
初期のエコ・ドライブでは、必要な光透過率はとても高く、ソーラーセルの色が透けてしまい、文字板に色や模様などのデザインを施す余地はほとんどありませんでした。
ソーラーセルの発電効率の向上と、ICやモーターなどの省電力技術の進展などで、必要な透過率はだんだんと下がっていき、いまでは初期の光透過率の1/4の文字板を採用するモデルも出てきています。
一方で文字板の材料を取り扱う技術も進歩して、一見透明に見えないのに光を通す文字板や、プラスチックの板の間にフィルムを挟み込むことによって金属光沢を見せる文字板などが開発されています。
これらの技術によって、光発電とウオッチフェイスのデザイン性が両立されています。
さまざまな文字板
URF | 特殊加工された樹脂素材により金属感が演出されています。 | |
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多層 | 幾層にも重ねた樹脂素材で奥行き感が現れています。 | |
立体成形樹脂 | 成型された樹脂素材により立体感を演出しています。 | |
マイクロホール | 無数にあけられた小さな穴により、光発電が可能です。 | |
白蝶貝 | 天然白蝶貝を太陽光が通る薄さまで加工しています。 | |
セラミックス | 硬質で割れにくい陶磁器を使用しています。 | |
漆 | 漆を用いた部品により高級感を演出しています。 | |
御影石 | 建築でも利用される花崗岩を使用しています。 |
さらにフレキシブルなデザインを実現するために、ソーラーセルでもさまざまな試みが行われています。
光を電気に変換する、エコ・ドライブの要の部分がソーラーセルです。
ソーラーセルに使われる半導体材料にはさまざまな種類がありますが、エコ・ドライブでは、蛍光灯のような人工光でも比較的よく発電できる、アモルファスシリコン系素材のソーラーセルが使われています。
現在エコ・ドライブに使われているソーラーセルはおおまかに4種類。
文字板の下全面を覆うスタンダードソーラーは、発電効率が高く、先進機能を多く搭載するモデルで使われています。
薄型ソーラーは文字板の下にドーナツ状のソーラーセルを置きます。
ソーラーセルと重ならない文字板中央部に、自由度の高いデザインが施せます。
透明ソーラーは、幅数ミクロンの半導体アモルファスシリコンを使い、肉眼では見えない線状のソーラーセルをカバーガラスに配置するタイプです。
リングソーラーは、樹脂製フィルムを基材とした曲げられるソーラーセルを採用して、文字板をとりかこむように配置したものです。
近年では上面からではなく時計の側面から光を取り込む、側面リングソーラーというタイプも登場しています。
透明ソーラーとリングソーラーでは文字板デザインの自由度は格段に高まっています。
さまざまなソーラーセル
スタンダードソーラー | 透明ソーラー |
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リングソーラー | 薄型ソーラー |
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側面リングソーラー |
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エコ・ドライブの未来
「光にあててさえいれば、ぜんまいを巻き直す必要もなく、電池を交換する必要もなく、いつでもどこでもずっと動き続ける」。エコ・ドライブはある意味数百年来の時計を巡る人の思いを実現した夢の時計です。しかし、シチズンの挑戦は、時計をただ動かし続けるだけにはとどまりませんでした。時、分、秒それぞれの針を動かすという時計の基本的な機能だけでなく、アラームやクロノグラフといった便利な付加機能や、高度計、方位計、水深計と言った高度な計測機能、標準電波受信やGPS衛星電波受信、さらにはBluetooth接続によってスマートフォンと通信して時刻を修正する機能といった様々な機能を、光発電で得られる限られた電力の中で、しかも多くはデジタルの液晶表示ではなく、針を動かすことによるアナログ表示で実現してきました。これらは、エコ・ドライブ時計の小型化、薄型化や月差から年差への精度の追求とともに、数十年に及ぶ技術開発の結晶です。シチズンはこれからも、世界に認められた基幹技術の一つとして、さらにエコ・ドライブの理想を追求し続けます。