INTERVIEWS - VOL.06

シチズンが考える「腕時計に最もふさわしい素材」とは?

シチズンが世界で初めて時計ケースに用いた純チタニウムの魅力に迫る
技術面、デザイン面、その両方において常にシチズンの最先端を牽引する腕時計「アテッサ」。その最新モデル「アテッサ エコ・ドライブGPS衛星電波時計F950」のケースとブレスレットには、軽く強く美しく、人に優しいチタニウム素材「スーパーチタニウム™」が採用されている。
スーパチタニウム™のバックボーンとしてあるのは、シチズンならではの純チタニウム素材への徹底したこだわりと、その美しさを引き出す独自の加工技術。さらには、比類のない強さと美しさを生み出す独自の表面加工技術「デュラテクト」だ。
今回は、20年以上にわたり、アテッサをはじめとしたチタニウムウオッチの材料技術および加工技術の開発を担当してきた、廣江誠一(ひろえ せいいち)に話を聞いた。

―純チタニウムこそ腕時計に最適・最高の素材

「腕時計にとって最高の素材は、やはりチタニウムだと思います」――そう語るのは、1983年にシチズン時計に入社し、勤続36年目に突入したというベテランエンジニア、製品統括本部 技術開発部でリーダーを務める廣江誠一である。

廣江が初めてチタニウムに出会ったのは、今から20年以上も前のこと。入社後、最初に配属されたのは埼玉県の所沢市にあった技術研究所。当初は、セラミックスなど脆性材料の切削や研磨による精密加工を研究していた。そのとき、製品開発の現場から持ち込まれた相談が、「チタニウムの外装(ケースやブレスレット)の研磨が難しい。何とかならないか」というもの。これを機に、チタニウム部品の研磨工程に関わったことから、長きにわたる取り組みが始まったという。

ところで、シチズンのチタニウムの加工技術は、時計業界において世界的に見ても草分け的な存在だ。1970年には、世界で初めて純チタニウムをケースに使った電子式ムーブメントの腕時計「X8(エックスエイト)」のクロノメーターモデルを開発・発売している。

1987年には、純チタニウムをケースとブレスレットに使った“ザ チタニウムウオッチ”である「アテッサ」の初代モデルが誕生。以来、今日に至るまで、シチズンは純チタニウムの可能性を追求して、独自に加工技術や表面硬化技術の研究開発に取り組んできた。そして、その最前線に立ち続けてきたのが廣江であった。

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1987年に発売されたアテッサ初代モデル

「当初は純チタニウムの研磨技術を開発していたのですが、材料の特性から考えないと駄目だと分かり、材料技術の研究・開発にも取り組んできました」

そんな素材のエキスパートである廣江は、チタニウム、中でも純チタニウムこそ腕時計に理想的だと断言する。

純チタニウムは、同じ大きさならステンレスよりおよそ4割も軽く、耐食性にも優れ、錆びる心配もない。しかも金属アレルギーを起こしにくい。だからシチズンは、純チタニウムにこだわるのだという。

しかし純チタニウムは軟らかく、そのままでは傷が付きやすいという欠点がある。そこでシチズンが開発したのが、純チタニウムの表面にステンレスをはるかに超える硬さ、強さや美しさを与える「デュラテクト」という独自の表面硬化技術である。純チタニウムにこだわってきたからこそ「デュラテクト」は誕生したのであり、またこの技術があるからこそ、シチズンは純チタニウムにこだわるのだ。

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―完璧な加工と美しさのために、素材の組成からこだわる

一般的にチタニウムは軟らかい。では加工が簡単かというと、むしろ逆なのだ。金属の世界では、チタニウムは加工が難しい「難加工材」として知られている。

「そもそもチタニウムは軟らかいうえに、粘りがある金属です。また化学的に活性が高く、化学反応を起こしやすい。そのために加工が難しいのです。プレス加工機を使って、金型でケースやブレスレットの形に『抜く』ときも、キレイにスパッと切れにくいだけでなく、金型とくっついてしまう。加工のときに表面が摩耗して溶けて、金型の金属に凝着してしまう『カジリ』という現象が起きてしまうのです」

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同様の問題は、プレス加工の後で行われる切削加工でも起こる。工具を当てて削るときも、工具に材料がくっついてしまうのだ。切削加工中に、切削工具の先に切り粉が付着してしまうこともある。そうなると当然、切削工具は摩耗して、寿命が短くなる。またそのような状態では、加工しても正確な寸法を出すことが難しい。

「切削はもちろん、その後の研削(砥石で表面を削る)加工、研磨(磨き)加工の段階でも問題が起こります。軟らかく粘りがあるために、表面がむしり取られた形になってしまうのです」

こうした問題を解決するために、廣江はチタニウムの品質を見極め、徹底的な品質管理を行ったうえで、最適な加工を施すための技術の研究を続けてきた。

アテッサの製造にあたり、まず行うのが、素材の吟味。購入する素材は工業用の純チタンだが、可能な限り不純物の混入が少ないものをメーカーに発注する。そして加工前には、一度加熱する「焼戻し」などの前加工を行う。

「購入する純チタニウムは板や棒の形になっていますが、その形にする過程でローラーの強い力で押し潰されているので、金属分子のつながり、つまり結晶組織がバラバラになっています。そこで、加工前に加熱して再結晶させ、結晶の組織を均一に戻すのです」

ここで廣江が注意を払うのが、素材のキメの細かさ、具体的には再結晶させた金属の結晶粒の大きさだ。これが小さいほど密度が高い。だから、さまざまな加工を施した場合も、表面の仕上がりが美しくなる。そこで製造工程では、廣江が研究と経験から割り出したデータに基づいて、加える熱の温度や熱を加える時間などを設定し、結晶粒の大きさを最適化する。

Vol.2のインタビューでデザイナーの井山健二郎が語った「シチズンはチタニウムの成からこだわる」という言葉は、廣江たちのこうしたこだわりを指しているのだ。

―究極の精度と美しさを実現した独自のチタニウム加工技術

素材の調達と品質の確認、さらに加工前の素材の熱処理が終わると、いよいよ純チタニウムをケースやブレスレットなどの最終的な形にする精密加工が始まる。

「アテッサ」のケースの場合、まず純チタニウム素材を高温に熱してプレス機で成形する、熱間鍛造というプレス工程がある。その次に、刃物を当てて正確に削る切削工程、砥石で表面を削る研削工程、表面を鏡面などに仕上げる研磨工程が控えている。そうした工程をそれぞれ幾度となく経て ―― つまり数十回もの工程を経て、ケースはようやく最終的な製品の形になる。

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チタニウムを高温に加熱することで変形抵抗を小さくし、様々なプレス成形を可能にしている
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シチズンでは、切削用冷却油、潤滑剤、切削速度などを一つひとつテストし、適正条件を地道に確立することで、安定した加工を実現している
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シチズンでは、さまざまな研磨技術を併用することで、美しい鏡面を実現している

そして、このプレス、切削、研削、研磨それぞれの工程に、純チタニウムにこだわってきたシチズン独自の技術とノウハウがある。例えば研磨工程で、ステンレススティール素材と同じような通常の「バフがけ」をしても、美しく平滑な鏡面(ミラー面)には仕上がらない。これはチタニウムの結晶粒の硬度が、場所により微妙に異なるからだ。そこでシチズンでは、バレル研磨やザラツ研磨など、複数の研磨技術を組み合わせて丁寧に仕上げている。

こうして仕上がったものに、さらにシチズン独自の「デュラテクト」と呼ばれる表面処理加工を加えて、ケースは部品として完成し、最終の組立工程を待つ。

「良い素材で正しい加工をして、正しい形状のものをつくる。それが私たちの仕事です。とにかく平面にせよ曲面にせよ、面をしっかりと正しい形状に仕上げなければならない。表面処理加工をしても、その前の加工が完璧でなければ良い製品にはなりません」と廣江は語る。

―チタニウムを極めたシチズンの純チタニウムケース

廣江たちが開発し確立した、シチズン独自のチタニウム加工技術。世界最高峰のこの技術を惜しみなく注ぎ込んでつくられた「アテッサ エコ・ドライブGPS衛星電波時計F950」の純チタニウム製外装は、もはやこれ以上は望めないほどの優れた完成度、美しさを備えている。

中でも廣江たちが「他社にはできない」と誇りにしているのが、美しく平滑な鏡面仕上げと、面と面が合わさるエッジ部分のシャープな美しさだ。

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「チタニウムをケースやブレスレットに使った腕時計で、アテッサほど鏡面仕上げを大きな面積で使ったものは他にないと思います。また、ケースの足の部分のように、いくつもの面がひとつにまとまる稜線部分、つまりエッジの部分がこれほどシャープで美しいものも、他社にはないでしょう」と廣江は語る。

チタニウムを極めたシチズンだからこそつくれた、「アテッサ エコ・ドライブGPS衛星電波時計F950」の純チタニウムケースとブレスレット。この記事を読んだあなたには、ぜひ製品でその美しさを確認して欲しい。きっと、新しい発見と感動があるはずだ。

INFORMATION
製品統括本部 技術開発部 廣江誠一

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