INTERVIEWS - VOL.01

世界初の光発電式衛星電波時計

「エコ・ドライブ サテライト ウエーブ」はいかに誕生したか?
光発電式衛星電波時計、つまりソーラーで発電・駆動し、GPS衛星の電波を受信して時刻を修正、秒単位まで正確な現在時刻を表示する腕時計。
今、世界中のジェットセッターが絶賛し愛用するこのアイテムを、世界で初めて商品化したのはシチズンである。
その第1号モデルが2011年3月、世界最大の時計宝飾見本市「バーゼルワールド2011」で発表され、同年秋に限定発売された「エコ・ドライブ サテライト ウエーブ」。このモデルはどのように誕生し、どのように進化して現在に至るのか。開発に関わった2人のエンジニアに話を聞いた。

―アイデアは20年以上前から!?

地上から約2万km上空の地球を巡る周回軌道にあるGPS衛星。この衛星から6秒おきに発信される、時刻情報が含まれる信号を受信・解析し、世界のどんな場所でも秒単位まで正確な現在時刻を表示する。しかも動力源は文字板下にあるソーラーセルで発電した電力。これが2011年の初代「エコ・ドライブ サテライト ウエーブ」で、世界で初めて製品化された光発電式衛星電波時計の仕組みだ。

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「GPS衛星の電波から情報を得て時刻を修正するというアイデアは『エコ・ドライブ サテライト ウエーブ』が誕生する20年前、1991年頃からあったと聞いています」。
初代モデルの開発を担当した現 時計開発本部 技術管理部 開発推進課の萩田拓史(はぎた たくし)は語る。

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ただ、当時の技術ではとても実現できるものではなく、あくまでアイデアに過ぎなかった。
「技術的な目処が立って実際に開発が始まったのは2007年末頃。当初は所沢にある研究所で、私を含めたった3人でのスタートでした。『まずやってみよう』から『どうやらできそうだ』になり、『製品化のために何を開発しなければならないか』その検討に入りました。緑色の回路基板にアンテナをくっつけた部分的な試作品で動作原理を確認していて『これが腕時計の中に入るかな?』と思ったことを覚えています」。

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ゼロから開発しなければならないものは数多くあった。GPS衛星の発信する電波を確実に受信するアンテナや、その信号処理を行うICなど、必要な要素をひとつひとつ検討していったという。
「製品化プロジェクトが始まったのは2010年3月頃。その時から私も開発スタッフに加わりました。この時点で2011年のバーゼルワールド(バーゼルフェア)で発表することは決められていました」。
後から開発プロジェクトに加わった現 営業統括本部 事業企画部の保坂隆(ほさか たかし)も語る。

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―製品化最大のハードルは、電波の受信と省電力化

世界初の光発電式衛星電波時計「エコ・ドライブ サテライト ウエーブ」。その製品化の過程で開発陣が直面した大きな問題は2つあった。そのひとつは、GPS衛星の電波が受信できないこと。そしてもうひとつが、回路のさらなる省電力化だった。

何よりも難航したのが、GPS衛星の電波を捉える受信アンテナの開発だ。
萩田:「GPS衛星の電波は、性質が光に近い極超短波。電波腕時計が受信する標準電波の長波とは違うため、これまでの経験が通用しませんでした。しかも、もともと受信しにくいように電波の出力も低く抑えられています。これを腕時計の中に入るアンテナで受信するのが難しいのは当然です」。

アンテナの開発では、電波腕時計とはまったく違う問題にも直面した。
保坂:「極超短波なので、アンテナの後ろに金属、たとえば歯車や回路基板があるだけで、その影響を受けて受信の効率が悪くなってしまうのです。大きなアンテナを避けて回路を設計するしかない。作ってみたらおかしな信号が迷い込む。そんなことも起こりました。『いったい、どうすればいいんだ』と話し合ったことを覚えています」。

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コンピュータによるシミュレーションは製品開発には欠かせない手法だが、受信アンテナの開発では、シミュレーションはほとんど役に立たなかったという。開発陣は試作を繰り返し、会社の屋上で日々、受信テストを続けた。
萩田:「屋上でのテストは200回以上もやりました。まったく受信できないこともありましたね。難航していることを上司に報告したら『100回やったか?』と言われましたが、その倍以上もやっていたんです」。

受信アンテナの開発と同時に、ICの省電力化も開発の大きなハードルとなった。
保坂:「エコ・ドライブ(光発電)で動くことは、2011年の製品化が決まったときからマストだったのです。標準電波を受信する電波腕時計では受信アンテナの上に光で発電するソーラーセルがあっても、電波の受信に問題は起きませんでした。ところが光発電式衛星電波時計では、ソーラーセルを受信アンテナの上に載せるとGPS衛星の電波を遮ってしまう。つまり、電波が受信できなくなってしまうのです。だからソーラーセルのサイズも、衛星電波時計では電波腕時計より必然的に小さくなる。だから得られる電力も少なくなってしまう。それでも回路を駆動するためには、回路全体をこれまでよりさらに省電力するしか道はありませんでした」。

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開発陣はこの2つの厳しいハードルを見事に乗り越えた。そして2011年3月「バーゼルワールド2011」で世界初の光発電式衛星電波時計「エコ・ドライブ サテライト ウエーブ」は限定モデルとして発表され世界を驚かせた。スポーティなデザインも絶賛され、フェアに来場した国内外の時計バイヤーから予約が殺到。まだ発売されていないのに、即完売状態となった。

―何よりも使いやすさを最優先した「最速」の設計思想

ところで、世界で初めて製品化された光発電式衛星電波時計「エコ・ドライブ サテライト ウエーブ」(2011年)から最新モデル「アテッサ エコ・ドライブ衛星電波時計 F950」まで、シチズンの衛星電波時計には、他社の衛星電波時計にはない優れた特徴、独自の設計思想がある。それは「ユーザーを待たせないこと」つまり「最速の時刻表示」を実現していることだ。
この「最速の時刻表示」のためにシチズンの技術陣は「エコ・ドライブ サテライト ウエーブ」の開発で思い切った決断を下した。GPS衛星の電波から時刻情報だけを取り出して利用することにしたのだ。

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GPS(グローバル・ポジショニング・システム)は本来は、その名の通り「地球上の現在地を緯度、経度まで正確に特定する」ためのシステムだ。そのためカーナビやスマートフォンでは複数のGPS衛星の電波を受信し、三角測量の原理で現在地を計算・特定した上で現在時刻を計算・表示する。しかし、カーナビやスマートフォンと同様に現在地の特定(測位)を行うと、現在時刻の表示まで長い時間がかかる。

萩田:「測位をすると、時刻の表示まで最速でも30秒以上の時間がかかります。衛星電波時計のいちばんの機能はワールドタイムウオッチ。つまり旅先で正確な時刻を表示することです。そこで短い時間でも受信ができる時刻情報だけを利用することにしたのです」。

実際、現在地の緯度、経度を特定しなくても、正確な時刻表示を行う機能に問題はない。それよりもGPS衛星の電波を受信したら、待たされることなく、できるだけ速く現在時億を表示してくれる方がありがたい。この決断の結果、電波受信から時刻表示までの時間は「最速で6秒」を達成した。

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そのため、2013年に発表された「シチズン プロマスター エコ・ドライブ サテライト ウエーブ エア」、2014年に発表された世界で最も薄い(当時)衛星電波腕時計「エコ・ドライブ サテライト ウエーブ F100」までは、初代「エコ・ドライブ サテライト ウエーブ」のこの思想が貫かれている。そして新モデルごとに「最速の時刻表示」の追求は続けられ、F100以後は何と「最速3秒」の表示を実現している。

さらに、この驚異的な「時刻表示の速さ」には「賢明な割り切り」に加えて、もうひとつの秘密がある。それは、時刻を表示する針の駆動方法の革新だ。
その革新のひとつが「エコ・ドライブ サテライト ウエーブF100」で採用された、時分秒それぞれの針を駆動するモーターを独立させる「独立モーター化」。それまでは、分針と時針をギアで連結して、ひとつのモーターで動かしていた。だが針を駆動するモーターを独立させることで、時分それぞれの針を修正が必要な分だけ、高速で動かすことが可能になる。

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さらに「エコ・ドライブ サテライト ウエーブF900」では、時分針を動かすモーターに、「高速ツインコイルモーター」と呼ばれる特別な構造のモーターを開発、採用した。これは時計回りの方向にしか高速で回転させることができない従来型のモーターとまったく違い逆方向、つまり反時計回りの方向にも、時計回りの方向と同じように高速で動かせる。その結果、電波を受信してからの時刻表示がさらに速くなったのだ。

保坂:「もともとはカレンダーディスクを動かすために開発された技術でしたが、その技術を応用しました。時刻合わせの操作の快適さ、時刻合わせのスピードの速さは、ワールドタイムウオッチである光発電式衛星電波腕時計にとって何よりも大切なことだと私たちは考えています。ぜひ店頭で操作してみて、その速さ、他社との違いを実感して頂きたいです」。

ちなみに、2015年の「エコ・ドライブ サテライト ウエーブ F150」以降は、地球上での現在地を特定した上で、時刻表示を行うこともできるシステムが採用されている。それは、電波受信機能も信号を処理する回路も大きく進化して「割り切り」が不要になったためだ。

萩田:「シチズンの創業以来のポリシーは、より多くの人が幸せになる、より多くの人に使って頂ける腕時計を作ること。より速くするためだからサイズが大きくて厚くて重くても仕方がない。私たちはそうは思いません。少しでも小さく薄く軽く着けやすく、そして美しく。どんな腕時計でもそれが理想だと思います。私自身は現在、開発の現場からは離れましたが、開発陣のこの想いは変わりません。製品に込めた私たちのこの想いを、想いから生まれたこの価値を、ぜひ店頭で製品を操作して感じて頂けたら嬉しく思います」。

INFORMATION
時計開発本部 技術管理部 開発推進課 萩田 拓史
業統括本部 事業企画部 保坂 隆

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